京都が誇る文化の一つ、「抹茶」。

鎌倉時代に持ち込まれて以来、800年以上にわたり愛され続けている抹茶は、日本はもとより世界中で人気が高まっている。

世界の抹茶市場は、2021年に27億5000万米ドルの規模となり、2027年には42億8000万米ドル規模に達すると予想されるなど、世界規模で急成長中のマーケットなのだ。

抹茶を使った飲み物や食べ物は今や巷にあふれているが、従来の抹茶の概念を大きく変える可能性を秘めているスイーツブランドがある。

パティシエ・木村慎助さんが手がける「TREEE’S KYOTO」だ。

人気商品「お濃茶テリーヌ」。石臼で丹念に挽いたオーガニック宇治抹茶と、同じ産地の宇治で育てられた”平飼いの卵”、そして上品な甘さの最高級フランス産クーベルチュールが、絶妙な濃厚さとなめらかな口溶けを織りなす(画像:TREEE’S KYOTO)

無農薬の有機宇治抹茶を使った独創的なスイーツは、抹茶本来の味わいや風味を究極のレベルまで引き出したもの。

使う抹茶は単一品種茶葉(シングルオリジン)にこだわり、品種や栽培方法に合わせて最も個性を引き出せるスイーツを考えていく。抹茶に合わせる素材は世界中から探し出し、納得するものが見つからない場合はゼロから自分の手で作りだすことも。

パティシエでありながら、主役はスイーツではなく、あくまで抹茶なのだ。

さらに、スイーツを開発するアプローチには、日本でも数百人しかいないワインの上位資格「ソムリエ・エクセレンス」を有する木村さんのソムリエの手法が活かされているという。

木村さんが目指す究極の抹茶スイーツとは。

(文:石原藍 写真:江藤海彦 編集:小池真幸)

「どんなスイーツをつくるか」ではなく「この抹茶の魅力を一番引き出せるスイーツは何か」

「TREEE’S KYOTO」のコンセプトを最も表現した商品の一つが「抹茶テラリウム」だ。

小さな瓶で苔玉テラリウムのように見えるものは、有機栽培された宇治抹茶に北海道産のクリームチーズと生クリームを使った抹茶のレアチーズケーキ。

遊び心あるスコップ型のスプーンでいただくと、中からは上質な抹茶を少量の水と和三盆で溶いた濃厚な抹茶ソースが現れる。

土に見立てたココアクランブル、石に見立てたクルミのキャラメリゼは味と食感のアクセントに。奇をてらうだけではなく、驚きのなかにも本質的な抹茶の味わいを最大限に表現した商品は、2021年の発売当初から話題となった。

オーガニック宇治抹茶を、ゼラチンなどの凝固剤を一切使わずに北海道産クリームチーズと生クリームのシンプルな素材の力だけで固めた「抹茶テラリウム」(画像:TREEE’S KYOTO)

お茶の世界で一般的な合組(ごうぐみ、様々な品種の日本茶をブレンドすること)された抹茶ではなく、品種を使い分けているのも「TREEE’S KYOTO」のこだわりだ。

コーヒーならモカやキリマンジャロ、ワインならシャルドネやピノノワールなど、さまざまな品種があるように、抹茶にもそれぞれ茶葉の個性がある背景を知ってほしいとシングルオリジン(単一品種茶葉)を使い分けている。

厳選したシングルオリジン抹茶の食べ比べができる「ボタニカルクッキー缶」(画像:TREEE’S KYOTO)

そして、従来の抹茶スイーツと決定的に異なるのが、抹茶と合わせる「副素材」という考え方だ。

「例えば抹茶のチーズケーキをつくろうとすると、チーズケーキのレシピに抹茶を数%加えてチーズケーキを仕上げる方法が一般的です。しかし、僕の場合は逆で、まず抹茶をテイスティングして、抹茶の風味や特徴を立体的に分析し理解した上で、副素材は何を合わせようかを考えていくんです」

「ソムリエがお料理にワインを合わせるように、抹茶の個性に副素材をペアリングして、絶妙な調和や美味しさの広がりなど細部まで計算しながらつくっています。合わせるものはクリームチーズかもしれないし、ホワイトチョコや生クリームかもしれない。『どんなスイーツをつくるか』ではなく、『この素晴らしい抹茶の味わいや魅力を一番引き出せるスイーツは何か』。そもそものアプローチが違うんです」

本質を引き出すため、自ら素材まで開発

抹茶の本質を引き出すために、副素材を一からつくることも。

例えば、木村さんが「ホワイトベース」と名付けたホワイトチョコは、抹茶と合わせるために自ら開発したものだ。

「抹茶を究極まで表現しようとした時に、世界中のホワイトチョコを取り寄せ、抹茶と合わせてみたんです。しかし、一般的なホワイトチョコには乳化剤や香料が入っているため、抹茶本来の繊細な風味を最大限に活かすには納得いくものを見つけられませんでした」

そこでたどり着いたのが、無糖のホワイトチョコだ。

乳化剤・香料・砂糖を使用せず北海道産の粉乳とカカオバターのみで固めたホワイトベースをオリジナルで開発した。

そのホワイトベースに抹茶を合わせると、抹茶の繊細な味わいを最大限に引き出すだけでなく、純粋な抹茶チョコレートならではの気品ある高貴な香りや深み、そして長い余韻を表現することに成功した。

木村さん自ら開発した「ホワイトベース」

「TREEE’S KYOTO」のスイーツは味はもちろん、そのコンセプトが高く評価され、2021年の立ち上げからわずか1年にして世界的に有名なチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」に初出展。

「世界中の一流ショコラティエが集まる祭典に無名の僕が出展するのは、前代未聞だと思います。僕が信じている本物の抹茶とショコラの表現を、バイヤーの方に理解していただけたのは嬉しかったですね」

ワインの“本質”に触れた衝撃

実は、木村さんは全て独学でスイーツを作っており、パティシエとしての長年のバックグラウンドがあるわけではない。

むしろ木村さんの技術的な強みは、ワインソムリエのなかでも最難関といわれる上位資格「ソムリエ・エクセレンス」を有することだ。

ただ、キャリアのスタートは飲食とはまったく別の業界だった。

「もともと地元の北海道の進学校に通いながら音楽をやっていたんです。その後在学中にスカウトされて、東京の事務所に所属して音楽活動を続けていき、次第に自分を表現するだけではなく、楽曲提供やプロデュースなども手がけるようになりました。その頃から、ブランディングの大切さにも気付きはじめましたね」

業界柄、高級レストランを訪れる機会も多かったという。そこで出会ったワインの美味しさに衝撃を受けた。

「当時20代前半でワインの知識や情報が無いながらも、世界中からこだわりをもって選ばれているワインは、奥行きや深みなど、味わいの広がり方や個性が全く違い、衝撃を受けました。本物や本質にふれる大切さをその時に強く実感しました」

ワインとの衝撃的な出会いから飲食への興味が広がった木村さんは、飲食業に転身。

音楽業界でのプロデュース経験を活かし、東京のフレンチレストランやダイニングカフェなど複数の店舗でお店づくりからブランディング、運営まで幅広く手がけていった。

ソムリエとして気づいた、抹茶とワインの共通点

木村さんが京都を訪れたのは、とあるオーナーから「京都で店をやらないか」とオファーを受けたのがきっかけだった。

「京都は土地勘もないですし、言葉も文化もまったく違う。そんな環境の中で自分の力試しをしてみたいと、外国に飛び込むような思いでしたね」

最初に携わったレストランが軌道に乗り、2店舗目に手がけたのが日本茶のカフェ。そこで宇治の茶匠と出会い、抹茶についての知識を深めていった。

「京都は、お土産屋さんなどで普通に売っている抹茶スイーツやソフトクリームも、驚くほど美味しくて。やはり一般的なお茶のレベルが圧倒的に高いと感じました」

その中でお茶の生産者様を訪れる機会があり、そこで口にした玉露に第二の衝撃を受けたという。

「こんなお茶味わったことがない……。まるでお出汁のような旨味が凝縮された味わいと、深い余韻……グランヴァン(特級畑のワイン)を味わっている時と同じ感覚を覚えました」

こうした心に残る実体験による衝撃が引き寄せ、運命が重なり合うように「ワイン」と「お茶」に自然と興味を抱くようになった。そうして木村さんは「人生をかけてやり続けたいことと自分にしか出来ないことを追求」しはじめ、2018年に独立することになる。

「抹茶はパウダー状になったものですが、さかのぼると茶の木(チャノキ)を茶農家が育て、茶師が茶葉を合組(ブレンド)したものが商品になっています。茶の木は品種が100種類以上。色や香り、渋み、旨みの含有量によって個性があり、生産者の思いによっても育て方が変わる。これってワインと全く一緒だなと」

「一般の方が感じられない味覚や嗅覚など、ソムリエならではの分析能力を駆使して抹茶を使い分けることで、自分にしかできないスイーツ作りの強みになるのではと思いました。抹茶・ワイン・チョコレートに共通する、“嗜好品”としての究極の美味しさや楽しみ方を、沢山の人にもお伝えできたらと思いました」

抹茶の本質を味わえるエンターテイメントを

そうしてさまざまな老舗茶舗やミシュラン星付きの料亭などへ向けた抹茶の商品を開発し世に送り出していた木村さんだったが、2021年、抹茶スイーツのオリジナルブランド「TREEE’S KYOTO」を立ち上げた。

背景にあったのは、コロナ禍によって起こった、取り巻く環境の大きな変化だ。

「京都は観光地なので、さまざまな方面で大きなダメージを受けました。僕が手がけてきた抹茶スイーツも影響を受け、本当に自分がつくりたいものや目指したいことは何なのか、あらためて考えるようになったんです」

「ソムリエの視点で五感を駆使しながら、新たな抹茶スイーツの魅力や楽しみを生み出したい。自分しかできない強みやこだわりが詰まった、どこにもないワクワクするような究極の抹茶スイーツをつくってみたい。そんな風に思うようになりました」

木村さんの挑戦を後押ししたのは、何よりも京都の抹茶に対する強い思いだった。

「日本全国に抹茶の産地はありますが、京都で宇治の抹茶に出会い、風味や余韻に感動したのは僕にとって大事な体験でした。こんなに美味しいものを、日本だけにとどまらず、世界中に伝えたい。その思いから自分の思い描く抹茶スイーツをつくろうと決めました」

ブランド名「TREEES」は、「茶の木、ブドウの木、カカオの木、木村の木」にかけて“木”を表す。3つのEには「Enjoy(楽しい)」「Entertainment(エンターテイメント)」「Essence(本質)」の意味が込められている。

「もともと音楽業界にいたこともあって、常に人を楽しませたい、ワクワクさせたいという思いはありますね。エンターテイメント性がありながらも、食べると抹茶の本質をつくような味を体感できる。そんなギャップを楽しんでもらえるような商品設計をしています」

最高峰の抹茶ともコラボし、唯一無二の世界的ブランドへ

インターネット販売を中心に、独創的なスイーツが話題を集め続けている「TREEE’S KYOTO」。抹茶を通して木村さんの出会いの輪も広がりつつある。

「抹茶の世界をもっと掘り下げていきたい思いもあり、たびたび茶農家さんのもとを訪れていろんなことを教えてもらっています。畑に行くと、つくり手としてインスピレーションが湧き、これまでとは違う角度から新しいものを生み出したい気持ちが強くなりますね」

同志社大学商学部の学生とともに、京都テロワールをテーマに地元ワインである「丹波ワイン」に合う抹茶スイーツ「T RICH STICK」も開発。

2023年には「記憶に残る御抹茶菓子」をコンセプトに、高級御抹茶菓子の新ブランド「つりい京都」を発表。

内閣総理大臣賞など数多くの輝かしい実績をもつ碾茶・抹茶の「辻喜」様との縁がきっかけで、最高峰の抹茶「あさひ」や「さみどり」を体感出来る唯一無二のプレミアムスイーツを生み出している。

DIG THE TEAでも2022年春、新茶の季節に辻喜の茶園を訪れた(まるで“畑のフォアグラ”、至極の抹茶が生まれるまで:新茶をめぐる冒険:京都宇治編

「辻喜さんの抹茶は、ワイン用語で一言で表すなら、まさに『フィネス』。エレガントで繊細な味わいを持つワインへの、リスペクトと称賛の言葉です。江戸時代から続く伝統製法で栽培された、洗練された味わいに感銘を受けました。1キロあたり何十万もするような素晴らしい抹茶をあえてスイーツにすることには相当な覚悟がいりましたが、最高峰の御抹茶の新たな魅力をスイーツで表現したいという、新たな挑戦が始まりました」

「御抹茶を茶道のお点前でいただくことも素晴らしいのですが、御抹茶菓子としていただくことは、子どもから大人まで誰でも気軽に愉しむことができます。スイーツを通して一杯のお点前をいただけるような幸福感のある特別な体験を表現することが、僕のミッションだと思っています」

「辻喜」の「あさひ」を使った最高級抹茶ショコラと、イタリアの大理石を使った削り器がセットになった「御抹茶カルーセルショコラセット」。石臼を挽くようにハンドルを回すと、抹茶ショコラが花びらのようにふんわりと削れていく。
口のなかにいれると一瞬で溶けていったが、抹茶の鮮明でさわやかな余韻がしばらく残り続けた。なんという存在感。まさにひと口で一杯のお点前を味わったかのような体験だった。

抹茶ブームが広がるなか、木村さんは日本だけに留まらず、海外進出・展開を進めていくことも目指している。

「唯一無二のブランドをつくるという思いは変わりません。世界中の方へ日本の素晴らしい抹茶や抹茶スイーツの魅力をお伝えしていきたい。そして本場のフランスへ文化を感じながらワインを飲みに訪れるように、世界中から日本、そして京都へ本物の抹茶や抹茶スイーツを体験しに訪れていただきたい。これからも枠にとらわれず、伝統を大切にしながらも、その時代にあわせて進化させながら、自分のスタイルを確立し挑戦していきたいですね」

愛おしそうに商品を手に取りながら、笑顔を絶やさず穏やかに話す木村さん。しかし、その瞳の奥には世界展開を見据える覚悟と抹茶へのあくなき情熱が宿っていた。

「TREEE’S KYOTO」オンラインショップ

Follow us!  → Instagram / Twitter

Share
Share
  • 著者:
    石原 藍
    ローカルライター・編集者。大阪府出身、福井県在住。リクルートで広告制作を経てフリーランスへ。地域コミュニティやものづくり、移住などをテーマに、全国各地を訪れインタビューや執筆を手がけている。また、地域のプロジェクトにも数多く伴走し、その取り組みやローカルで暮らす人たちの声を発信している。著書に『販路の教科書』(EXS Inc.)
  • 編集:
    小池 真幸
濁流のように去りゆくこの時間を、心が溶けるひとときに。