連載

石川・ペザン農園と共同実験中。ホップを植えて、カモミールを手摘みしてお茶にしてみた。

坪根育美

石川県で農福連携に取り組みながら、食のプロたちも絶賛するハーブを栽培する「ハーブ農園ペザン」。

DIG THE TEAが2023年夏に訪れた取材では、農園を運営する「ポタジェ」の代表・澤邉友彦さんに、農福連携によって生まれたおいしさの理由を教えてもらった。

澤邉さんのハーブに向けるあたたかなまなざしと、農と福祉の新たな未来を開拓していく力強い姿に共感したDIG THE TEAは、澤邉さんとともにハーブの可能性を探求する共同実験をスタートさせた。

その始まりとして、ペザンの拠点である河北潟(かほくがた)エリアではなく、ペザンがラボのように使っている白山市にある谷間の畑を活用しながらさまざまなハーブを育てる試みが進行中だ。

2023年10月に訪れた前回の記事では、畝(うね)づくりとジャーマン・カモミール(以下、カモミール)の苗の植え付けの様子をレポートした。

今回は春になり収穫の時期を迎えたカモミールの様子や新たなハーブの植え付けなど、この実験の続きをレポートする。

(取材・文:坪根育美 写真:川しまゆうこ 編集:川崎絵美)

※2024年元日に発生した能登半島地震により被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

新緑の季節を迎えた山間の栽培ラボへ

ゴールデンウィークを少し過ぎた5月の初旬。約7カ月ぶりに訪れた新緑あふれる白山の土地は、まだ数回しか訪れていないにもかかわらず、すでに懐かしさを覚えていた。

もともと棚田だった段々畑の中腹にある、栽培ラボとなる畑に向かう途中、白い小さな花の集まりがゆらゆらと踊る様子が目に入る。

その瞬間、山から吹く風に乗ってカモミールの甘やかな香りが鼻先をかすめた。

50メートルほどの長い畝の一列に咲き誇っているカモミール。昨年、秋に植えたときは赤ちゃんの産毛のようにホワホワだった小さな苗が、雪深い冬を越えて立派に成長していた。その姿を見ただけで感動だ。

澤邉さんは、今回も先に畑に到着して作業の準備をしてくれていた。

まずは「今回もよろしくお願いします!」とお互いに挨拶。実は先般の能登半島地震のこともあり、白山に到着するまで少しだけ気持ちがこわばっていたが、影響の少なかった白山の土地と、変わらぬ澤邉さんの笑顔を見て安心した。

今回の滞在は1泊2日。1日目に新しいハーブの植え付けとカモミールの収穫を、2日目はひたすらにカモミールを収穫する。

正直、「カモミールの収穫なんてすぐに終わっちゃいそう」と思っていたが、それはとんだ思い違いだったことをあとになって知ることになる。

ペザンでも初挑戦となるホップの栽培実験

早速、1日目に参加したDIG THE TEAのメンバーで、雑草予防のための防草シートを畝に敷き、前回も使った専用の機械を使って苗を植えていく。

苗の植え付け専用の器具で、ホップの苗を植えていく 

澤邉さんと一緒に決めたハーブの種類は、カモミールのほかに、ヨモギ、レモングラス、ディル、スペアミント、ホップ。

とくにホップは我々の期待値が高い。

「僕もずっとホップを育ててみたいと思っていたので、DIG THE TEAとの共同実験がいいきっかけになりました。ここでちゃんと育つのか、どんな活用方法があるかホップの可能性を探ってみたいですね」と、澤邉さんも未知の実験を楽しみにしてくれている。

蔓性で6~10メートルの高さにまで成長するホップは、畑の中で一番山側の畝に。スペアミントの苗と交互に植えていく。これは、高さの異なるハーブで高低差を作り、まんべんなく陽があたるようにするためだという。

今回新たに植えたスペアミントの苗
ディルの苗も植えていく

ホップの隣の畝にはディルとヨモギを交互に、その隣にはレモングラスをひと穴あけて植えていく。

「スパイシーグローブバジルというおもしろい名前のバジルを見つけたんですよ!」と、うれしそうな澤邉さん。いま育苗中とのことで、これもあとからレモングラスの隣に植える。

カモミールを植えた前回から、少しずつ作業にも慣れてきたため、手際よく苗の植え付けは終了。このあとは、心待ちにしていたカモミールの収穫だ。

「逆境に耐える」が花言葉のカモミール

白い花びらと筒状花と呼ばれる黄色の中心部分のコントラストが、美しく可憐なカモミール。小さな花を無数に咲かせる姿を改めて眺めると、昨年に植え付けた苗からの成長度合いに驚いてしまう。

冬の間、この地域は雪深くなる。

澤邉さんに聞いてみると、畑も完全に雪に埋もれていたそうだ。その間、苗の成長は止まるので、春の訪れとともに一気に成長したわけだが、澤邉さんは「予想外だった」と話す。

「カモミールの花言葉は『逆境に耐える』『苦難に負けない強さ』というくらい、寒さに強いハーブ。とはいえ、雪で埋もれてしまって大丈夫なのかと心配はしていました」

「うちは無農薬、無肥料で育てていて、苗を植えてからは何もお世話をしていないのですが、河北潟と変わらないくらい非常に花がきれいで、白山のほうが温度が低いため、花持ちがいい(しおれず、美しい花の状態を保つこと)ですね。これは予想外でした。花がきれいな状態で長く収穫できるのが、白山で育てるメリットといえます。ペザンのカモミールもここで育てたいですね。この実験は大成功です!」

澤邉さんに「大成功!」と言わしめたカモミール。うれしい気持ちのまま、いざ収穫へ。

一株に小さな花をたくさん付けるカモミールを効率よく収穫するコツは、茎の下を指の間に入れて花を挟み取るように行うこと。

ちなみに「阿波晩茶づくり」で挑戦した茶葉の収穫は、まさに「剥ぎ取る」と呼ぶのがふさわしいくらいハードなものだったが、こちらのカモミールはやさしく摘んでいく。

プチッ、プチッと軽やかで心地よい音が、畑の中で一人ひとりの手で奏でられていた。

「カモミールは、『畑のお医者さん』といわれるくらい栄養がある優秀なハーブなんです。そのため、花を摘み終えたあとは緑肥(植物を肥料として使うこと)にもなり、いい土壌をつくることができます」と、澤邊さん。

カモミールの魅力は花だけではないのだ。

また、花を摘み取っていると気づくことがあった。害虫と呼ばれるような虫が見当たらないのだ。その理由について、澤邊さんはこう教えてくれた。

「害虫を寄せ付けてしまう大きな要因は土のチッ素という成分で、これは肥料を与えると増えてしまうんです。もともと山の湧水を使った田んぼだったこの土地には、余計なものが入っていません。そのうえ無農薬、無肥料で育てていますから、チッ素が少ない。だから虫がつかないんだと思います」

摘みたてカモミールを味わう、贅沢なハーブティー

澤邊さんによると、カモミールの味と香りは、黄色い筒状花(とうじょうか)によるもので、この部分がまだ小さくふくらみきっていないもののほうがハチミツや青りんごに似たフルーティーな風味になる。

反対に筒状花が大きく開ききったものは、香りが強く、パワーのある風味になるという。

左のカモミールはフレッシュな甘い香り、右にいくほど花びらが開いて筒状花がふくらみ強いハーブの香りになる

また、ハーブティーにする際は余計なえぐみが出ないように、茎や葉など花以外の部分を極力入れないようにすることも大事なポイントだ。

試しに両方の状態の筒状花を齧ってみた。小さいもののほうがじゅわっとジューシーで、甘みのあるさわやかな風味が口に広がり、そのままでもおいしく感じた。

まだ作業に慣れていないこともあり、2時間ほどの間に収穫できたのは、わずか1メートル程度の範囲。畝は50メートルほどあり、うんと先までカモミールの満開の花が咲いている。

明日までにひと畝を収穫できるのか不安になりながら澤邉さんと解散し、この日の最後に、収穫したばかりのフレッシュハーブティーをいただくことにした。

さあ、畑の近くの原っぱで「小さな茶会」を開こう。

摘んだばかりのカモミールの花をポットに入れて熱湯を注ぐ。花の量は手のひらにこんもり盛った程度。5分ほど待てば、黄金色のフレッシュカモミールティーの完成だ。

口にふくむと、さわやかな香りがふくよかに広がる。

カモミールはフルーティーで甘さのある風味が特徴だが、ものによっては「甘さ」の部分が強すぎると感じることもある。しかし、こちらはあくまでやさしく、すっきりした飲み心地なので何杯も飲めそうだ。

豊かな自然に囲まれた環境で、摘みたての貴重なフレッシュハーブティーをいただく。幸せな時間が静かに、そしてゆるやかに流れていった。

風土の違いで変化し、個性が輝くハーブ

1日目よりも気温が高く、夏日の予報も出ていた2日目は、新たなDIG THE TEAメンバーを迎えて収穫作業をスタート。

澤邉さんが収穫したハーブをフリーズドライ工場へ軽トラックで持っていく14時までにすべてのカモミールを摘み取るのが目標だ。

実は、スタートの時点ですでに10時を回っていた。しかし、前日の収穫作業で少し慣れたこと、何より「全部終わらないかもしれない……」という焦りのおかげでスピードアップしてカモミールの花を摘み取っていくメンバー。

集中しながらも、ときおり笑い話に花を咲かせるが、手の動きは止めない。

作業自体はつらくないのだが、とにかく1株の花の数が多くて畝の1メートルほどを摘み終えるにも時間がかかる。

結局、畝の1/4ほど残してしまい悔しく申し訳ない気持ちは残ったものの、収穫コンテナに収まった見たこともないほどたくさんの量のカモミールを見て、清々しい気持ちになった。

工場への出発までの間に、澤邉さんにもフレッシュハーブティーを飲んでもらった。

河北潟で育ったカモミールとの違いはあるのだろうか。

「このカモミール、清涼感ありますね。カモミールって香りが甘くてもったりした印象。でもこれは飲んだあとの引きがよくて、河北潟のものと比べて爽やか。別の言い方をすると、生薬や香草っぽい」

「フリーズドライでどうなるのか楽しみですね。河北潟のカモミールはホットのほうが向いていますが、白山のものは水出しがいいかも。この違いはこの土地特有の、水や土、気候などの風土から生まれているんでしょうね」

いちばん違いがわかる澤邉さんも感じる、白山育ちのカモミールの個性。今回植えたハーブもきっと、この風土ならではの生育を見せてくれるはずだ。

今回もお世話になった感謝の気持ちとともに、軽トラックでフリーズドライ工場へ向かう澤邉さんを見送り、無事にミッション完了。

この日も「小さなお茶会」を開いたのち、帰路に向かったDIG THE TEAのメンバー。おみやげ用にいただいたカモミールの花束が移動中も心を癒やしてくれた。

新たなハーブ植え付けとカモミールを収穫した1日目のメンバー
カモミールをひたすら摘んだ2日目のメンバー

ホップは秋頃に、ほかのハーブは夏に収穫する予定だ。

今回も作業をしながら澤邉さんやメンバーから「次はこうしたい」「あれはこうやってみるのはどうだろう」と、どんどんアイデアが出てきた。

手を動かしながら、風土を感じることで、ハーブのアイデアや可能性が広がっていく。実験はこれからも続く。

》特集「ボタニカルを探求する」すべての記事はこちら

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Author
編集者/ライター/ディレクター

東京都在住。Webメディア『MYLOHAS』、『greenz.jp』、雑誌『ソトコト』などの編集部を経て2019年に独立。持続可能なものづくり、まちづくり、働き方をテーマに雑誌、Webメディア、書籍をはじめとする媒体や企業サイトなどで編集と執筆を行う。また「ともに生きる、道具と日用品」をコンセプトにしたオンラインショップ『いちじつ』のディレクター兼バイヤーを務める。

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編集者

お茶どころ鹿児島で生まれ育つ。株式会社インプレス、ハフポスト日本版を経て独立後は、女性のヘルスケアメディア「ランドリーボックス」のほか、メディアの立ち上げや運営、編集、ライティング、コンテンツの企画/制作などを手がける。

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フォトグラファー

若いころは旅の写真家を目指していた。取材撮影の出会いから農業と育む人々に惹かれ、畑を借り、ゆるく自然栽培に取り組みつつ、茨城と宮崎の田んぼへ通っている。自然の生命力、ものづくり、人の暮らしを撮ることがライフワーク。