農福連携に取り組む石川県の「ハーブ農園ペザン」。そこで作られるハーブのおいしさの理由を前回の記事で紹介した。

その取材から約2カ月後となる10月中旬、DIG THE TEAのメンバーは再び石川県に向かった。

農福連携という新たな枠組みから、本当においしいハーブを育てる彼らのイノベーティブな取り組みに心から共感し、ペザンとの共同実験をするためだ。

DIG THE TEAは「サンドボックス型メディア」と称している。子どもたちが砂場を舞台に自由な世界を作り遊ぶように、このメディア自体を遊び場にしながら、新しい「お茶の時間」のようなひとときを発見したい。そんな願いを込めて。

私たちは、これまでも徳島県上勝町の阿波晩茶づくりを体験したり、その茶葉を使ったカクテルをミクソロジストの方につくってもらったりした。

そして今回の実験は、「ハーブ農園ペザン」を運営する「ポタジエ」の代表・澤邉友彦さんと一緒に、まだ使われていなかった谷間の畑を活用して、実際にさまざまなハーブを育ててみようというもの。

事前の打ち合わせをふまえ、土地の気候や環境に合わせて、現時点ではステビア、レモングラス、ホーリーバジル、ディル、ヨモギ、ジャーマンカモミール、ペパーミントの栽培を予定している。

初回は栽培の土台となる畝(うね)作りと、越冬を見越したカモミールの植え付け作業。いよいよ始動した、私たちの栽培実験をレポートしていく。

(text:坪根育美、photo:川しまゆうこ、edit:川崎絵美)

白山市の山間にある栽培ラボで実験

石川県の『ハーブ農園ペザン』は海寄りの河北潟(かほくがた)エリアに拠点があるが、実はそこから車で50分ほどの白山市の土地でもハーブの栽培をしている。

山に囲まれた谷あいに位置する段々畑で気持ちのいい風が吹く。

ここはもともと棚田だった。現在はペザンが管理している畑となり、ペザンでもこれまでに扱ったことのないハーブ・植物などを実験的に栽培するラボとして活用していきたい場所なのだそう。

10枚ある畑のうち1枚(約8アール=100㎡ほど)を、私たちDIG THE TEAとの共同実験場として使わせてもらえることになった。

前日まで雨が降っていたのが嘘のような秋晴れの空の下、先に機械で土を耕し、整地してくれていた澤邊さん。「今日はよろしくお願いします!」と、今回もはつらつとした笑顔で出迎えてくれた。

ペザンのスタッフでハーブのブレンドなどを担当している九里(くのり)愛さんによる手描きの作付け表を見ながら、今日の作業内容を確認する。

今回は次の3つの作業をメインに行う。役割分担を決めながら進めていく。

1.4列の畝を作る

2.畝にマルチ(畝の表面を覆う農業用の資材)をかける

3.カモミールの苗を植える

ピュアな土をつくる 山の湧水

まずは、「1.4列の畝を作る」から。畝の土台の高さを整えるため、土の量を均一にして、でこぼこをレーキ(熊手)で平らにする。

土の中に大きな石があれば、それは根の成長の妨げになるため畝から取り除いていく。

畝を高くするのは、水はけをよくするためだ。高さがあるほど畝の側面から水が抜けて乾きやすくなるという。

「雨があまり降らない場所なら、畝をこんなに高くする必要はないんですが、北陸地方は降水量が多いため、畑は畝高に作るのが基本です。水が地中に溜まってしまうと根腐れして植物は枯れてしまう。そうならないための環境を作っていきます」

前日に大雨が降ったため、畑の一部にぬかるみがあるものの、事前に耕してくれたおかげで土の状態はふかふか。レーキでテンポよく高さをならし、石を取り除いていくDIG THE TEAメンバー。

作業の合間に、澤邊さんに「ここの土地はハーブに適しているのですか?」と聞いてみると、「山を切り崩しただけの場所なので、特別にいいわけではない」という。

「ただ、ここは水がいい。山の湧き水を貯水池にためて農業に使っているんです。基本的にハーブ栽培は自然にまかせているので、わざわざ水をあげることはしていませんが、田んぼだったときも山からの湧き水を使っていて、水に余計なものが一切入っていない」

「だから、ここはきれいな水しか流れていないピュアな土なんです。土の力はそこまで強くないけれど、良くも悪くもペザンでやっている無農薬、無肥料のハーブ作りには向いていると思っています」

畑からほど近い水路には、澄んだ湧水が流れていた

カモミールの畝に黒いビニールのマルチをかける理由

次は「2.畝にマルチをかける」。

マルチとは、畝の表面を覆う農業用の資材のこと。今回、カモミールを植える畝には黒いビニールのマルチシートをかけ、来年の春頃に植え付け予定のほかの畝には、少し厚みのある防草シートをかけることに。

カモミールの畝に黒いビニールをかけるのには理由がある。

「カモミールは冬の間は休眠し、春先に温度が上がるとぐんぐん成長して5月頃に花が咲きます。ビニールをかけておくのは、春先に温度をしっかり上げるためです。ビニールハウスの中をイメージするとわかりやすいかもしれません」

「雑草対策のほか、これからの季節は雨や雪がすごく降るので、畝がビチョビチョにならないように保護してあげる意味もあります」

まずは黒いビニールシートをかけるところから。両脇にビニールシートを敷く人、敷かれたシートにピンを指して留めていく人をそれぞれ配置してスタート。

ビニールシートを敷く際のポイントは、シートの芯にレーキの持ち手を入れること。二人でレーキの端をくるくる回せばシートが畝に覆いかぶさるというわけだ。最後にシートの両脇に土をかぶせて埋めるのだが、それは澤邊さんが用意してくれた機械を使った。

防水シートをかけるほかの畝も、役割を交代しながらスムーズに進行する。

「みんな、ものすごく手慣れていてびっくり。このペースなら今日の作業がすぐに終わってしまいそう(笑)」と澤邉さん。

実は今日集まったのは、真夏に過酷な作業が続く「阿波晩茶づくり」を一から経験したことがあるメンバー。限られた時間の中で、茶摘みと茶擦りを汗だくになりながら完遂させるあの過酷さに鍛えられたためか、今回はまだまだ余裕だ。

あの経験が、こんなところでも生きてくるとは……。

いよいよカモミールの苗を植える

しばしの休憩をとったあとは、今日のハイライトともいえる「3.カモミールの苗を植える」作業へ。

黒いポットに入った苗は、ペザンで今年自家採種した種から発芽したもの。四方八方に元気よく伸びる若い緑がまぶしく、かわいらしい。

先ほど敷いた黒いビニールのマルチシートの畝に、専用の道具を使って等間隔に穴を開け、そこにポットから取り出した苗を植えていく。

最後に軽くシャベルでひとすくいした土を苗の周りにかぶせる。穴を開ける道具を扱うのは全員が初めてだったため、コツを掴むのに少し手間取った。

道具に苗をセットする人、道具を使って植えつける人、土をかぶせる人、苗のポットを回収する人。

皆が持ち場を守りながらテンポ良く進めていると「阿波晩茶のときの過酷さと比べると、今日はなんて穏やかなんだろう」と、また思い出して頬が緩む。

「今のは上手いね」「ちょっと崩れちゃったかも」「大丈夫、まかせて!」と声を掛け合い、笑いが絶えないメンバー。こちらの作業も楽しみながら完了した。

農具を使ってマルチシートと畝の境目に土を被せれば完了だ

青シソの収穫体験も

阿波晩茶づくり効果のおかげか、予定よりも早く作業が終わったため、ペザンの仕事も手伝わせてもらった。植え付けをした畑から少し離れた場所にある畑で、大きく育った青シソを収穫する。私たちの働きぶりを澤邊さんに認めてもらえたようでうれしい気持ちになる。

澤邊さんが追加で用意してくれた鎌を片手に、茎ごと豪快に刈っていくメンバー。収穫コンテナは青シソでみるみるいっぱいになった。あたりが青シソのいい香りに包まれ、作業を終えた達成感と相まって、至福のひとときを味わった。

この青シソは河北潟のペザンで、茎と葉に仕分けされ、フリーズドライにされる。そして最終的にはペザンの商品であるハーブソルトになるという。

「みなさん予想していた以上に作業に慣れていて、すごいですね。とっても助かりました!いやあ、もっと作業を準備しておけばよかったなあ」と苦笑いする澤邊さん。

その言葉にDIG THE TEAのメンバーも笑みが溢れた。

今回の作業はこれで完了。

最初から最後までのびのびと楽しめた“白山時間”だった。

白山の土地ならではの魅力

作業をしている間、澤邊さんが向ける眼差しや、話しぶりからこの白山の畑をとても気に入っていることが伝わってきた。

現在ペザンがここで育てているのは、レモングラス、ペパーミント、スペアミント、ニホンハッカ、イエルバブエナ(モヒートミント)、レモンバームといういわゆる多年草と呼ばれるものが多いが、今後は種類を増やしていきたいという。その理由は環境のよさだ。

「河北潟は平地のため、日照がとてもいい。夏は35度近くまで気温が上がることもあり、葉っぱが強い日差しで焼けてしまう。でもここは山に囲まれていて、太陽が山に隠れる時間が長いので、比例して日照時間も少ないんです。温度も平地よりも低いので葉が焼けることなく育ちます」

「今年ミントを数種類育ててみたところ、河北潟のものと比べて、葉がとてもきれいでよかった。冬には雪がかなり積もる地域ですが、今後は収穫時期が短い一年草や、夏のハーブをこっちで栽培する計画です。まだこの地区には耕作放棄地があるのでそこもペザンで管理して、ゆくゆくはここ一帯を“ペザン王国”にしたいですね(笑)」

お土産にいただいた青シソとカモミールの苗を携えて、帰路に着いたDIG THE TEAのメンバー。次にここへ来るのは来年の春。

私たちとペザンの実験はこうして一歩を踏み出した。

はたして私たちのカモミールは、この雪深い白山の地で無事に越冬できるのだろうか。わずかな不安も抱きつつ、次の春が待ち遠しい。

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  • 著者:
    坪根育美
    編集者/ライター/ディレクター 東京都在住。Webメディア『MYLOHAS』、『greenz.jp』、雑誌『ソトコト』などの編集部を経て2019年に独立。持続可能なものづくり、まちづくり、働き方をテーマに雑誌、Webメディア、書籍をはじめとする媒体や企業サイトなどで編集と執筆を行う。また「ともに生きる、道具と日用品」をコンセプトにしたオンラインショップ『いちじつ』のディレクター兼バイヤーを務める。
  • 編集:
    川崎 絵美
濁流のように去りゆくこの時間を、心が溶けるひとときに。