「人の人類史を練り込む」香りの演出家が、1本の線香で描き出す世界

川崎絵美

「自然界にあるものなら、なんだって香料になる可能性を秘めている。そんなエロい目でいつも自然を見ています」

初秋に訪れた、京都御所の南側——。由緒と風情がある正統派の佇まいから一変、のれんをくぐると、異世界に誘われるような不思議な空間が広がっていた。

京都市、烏丸通りにあるお香の専門店「サンガインセンス本店 香煙研究所」。工房と売り場を併設する店内には、個性豊かな香りが漂う。

店主の橋本勝洋さんは、旅で出会ったさまざまな香りに魅せられてきた。

世界中で自ら採取してきたハーブ、香木、スパイス、鉱石などを原料に、創作香料を独自に開発。自然物だけで調香したオリジナルの線香は国内外で注目を集める。

彼は「香り」で、どうやって人々の心を刺激しているのだろうか。

“自然をディグる”香料集め

世界中を旅しながら、お香の魅力に惹かれていった橋本さん。訪れた国々の香りを日本に持ち帰った。一方、日本では香料を手に入れられない期間が長かったと話す。

「なんの後ろ盾もない、どこの誰だかわからない僕に、なかなか香料を卸してもらえませんでした。手に入らないなら自分で取りに行こうと、新しい香りを求めて各地で採取をはじめました。自然界にあって粉末になるものなら、何でも香料になりうると気づいたんです」

街中を散歩をしているとき、自転車で走っているとき——。橋本さんは、普段の日常で未知なる香りを探し求めている。

「これは、僕が半年かけて自然をディグった成果です。柑橘類の皮は、生薬でいえば陳皮。みかんを食べながら思ったんです。この皮、香料になるかもって」

もともと「探す、掘る」という音楽用語だった「ディグる」。彼は、その言葉を自然界においても軽やかに使いこなす。

香料は、道端で偶然出会うこともあれば、自ら車を走らせハンティングに向かうこともある。嗅覚をはたらかせて見つけるよりは、視覚からインスピレーションを得ることが多い。

「例えば、あの木、かっこいいなって思ったら、車を停めて近づいてみます。すぐにいい香りがしなくても、時間が経ったり火にかけたりしたら、香りが立つこともある。単体だとイマイチでも調香したらアシストになることも。どうなるかわからないのが香りの面白さ」

「ディグって、調香して、感じて、考える。そしてまた挑戦する。そのくり返し。これをくり返さないと、楽しみが続かないんですよね」

日本の「線香」がもつ機能美

世界を巡った橋本さんは、どんなお香なら人の生活に取り入れやすいのかを研究した。

火にあぶる香木、竹軸の入ったもの、紙で巻いたものなど、あらゆるお香の試作を重ねた。試行錯誤を繰り返した末、行き着いたのが線香だった。

「線香には、さまざまな機能美が詰まっています」と橋本さんは話す。

「火種の下から、一定量の煙が一定時間出ます。火種は300〜400度、火種の下がだいたい100度と一定の温度で燃え続ける。少量の煙がムラなく出るので生活空間になじみやすい」

日本の伝統的な線香は、燃焼時間が45分ほどなのに対し、山河のお香は25分。短めに設計されている。

「現代の暮らしに添ったものを考えました。一般的な生活空間を6〜8畳としたときに心地よく感じられる香りの濃度、煙の量、時間を計算しています。人間の集中力がキープされるのも25分くらい。煙をボーッと見て過ごせるのもそのくらいでしょう」

線香が燃え尽きるまでの長さを「一炷(いっちゅう)」と呼び、大きな意味を持つ。江戸時代では、線香を時計代わりにも用いられ、坐禅を行う時間や、遊郭での遊びの時間を一炷としていた。なかには線香を途中で折って、時間を短縮させる遊女もいたのだとか。

自然物だけでつくることにこだわった山河の線香は、化学糊や防カビ材などの化学物質を使わずに調香されている。

「つくり手としては、日常で使うには不便のない硬さを意識していますが、山河の線香は化学糊を使っていないので折れやすい。でも折れるからダメなのではなく、折れることの良さも感じてもらいたいと思っています」

「手に触れて、力の加減を知ることも大事です。香りだけではなく、時間の流れ、見た目や手触りなど、五感で味わってもらえたらと思います」

エッセンシャルオイルは、オイル自体に鼻に近づけるほど香りを感じる一方で、線香は煙が空気と混ざり合うことで「空間」を香りで満たす。

同じ空間にいる人たちと、同じ香りを共有し、楽しむことで、人の心が通い合う。現代を慌ただしく生きる私たちにとっては、香りでつながる時間は贅沢なひとときだろう。

「煙美(えんび)」を探求する

近年は、“煙の少ないお線香”が人気だという。しかし橋本さんにとって、煙は減らすものではなくあくまでアートだ。いったいどういうことか。

「煙を邪魔なものではなく、楽しんでもらいたい。そのために煙を美しくできないかと考えました。樹脂らしい煙、香木らしい煙。香料によってそれぞれ特徴があるんです」

「煙をどう表現するかは、これまでお香の世界ではあまり着目されてこなかったと思います。僕は、煙をコントロールするように調香しています」

彼がつくる線香から立ち昇る煙はまさに「煙美」。美しい曲線で揺らぐ煙に魅せられる。

フォトグラファーは思わず、時を忘れてシャッターを切った。

「煙や香りは、音楽に似ていますね。香りを“聞く”と表現する人もいるくらい。元気なとき、疲れているとき、不思議と感じ方が変わります。気分に合わせて暮らしの中に取り込んでもらいたいですね」

香料に「香り」は必要か

工房の棚に並ぶ、たくさんの香料。これらを練り込んで、オリジナルの線香が作られる。

「伝統的な香料も扱っていますが、老舗のお香屋さんが見たら『なんだこれ』と言うものもあるかもしれません。僕はお香の敷居を下げたいんです。カルダモン、ジュニパー、月桃なんかは、キッチンに置いてあるようなスパイスですが、これも立派な香料です」

「身近にあるものを使えば、自分でもつくれそうと思う人がいるかもしれない。そう思うと、好奇心が湧いてきませんか? 自分もスタートはそこだったので、自分がつくるお香で、誰かの“やってみたい”を刺激したい」

その思いが彼の原動力であり、ライフワークだ。お香作りのワークショップも開いている

ふと、ひとつの瓶が目に入った。

「隕石です。普通のお香ではまず使われない原料ですね。でも隕石を線香に練り込めば、これが宇宙の香りか……とワクワクしませんか?  この隕石に香りはありません。でも心が動いたらそれはもう“香料”と呼んでいい」

「僕は心が動く瞬間を生み出したい。“きみ、今日から香料な”って、僕が勝手に決めています」

彼は、そんな遊び心を自ら“中二病”と表現する。

「空間演出家として、海外や日本の音楽イベントでお香を焚くことがあります。そのときは、DJが流す音楽や、人々の息遣いによってその場で香りをアレンジします。香りは場所の空気も、人の感情にも変化をもたらす。だから見た目は、魔法アイテムをイメージしてみました。中二病っぽいでしょう」

「線香は、真っ直ぐでなくてもいいんじゃないかな」。そう言って彼は笑った。

香りは人の記憶にアクセスする

橋本さんは、世界中を訪ね、古来からの人々と香りの煙のつながりを肌で感じている。

「世界を旅してわかったことは、いろんな国のいろんな場所で、煙が立ち昇っているんです。人々が“何か”を焚いて、その煙に“祈り”を捧げている。そんな姿を目にしてきました」

「文明が発展していくと、必ずその土地の特有の香りが生まれるんだなって」

白檀は、仏教で用いられてきた木の香り。
ホワイトセージやスウィートグラスは、ネイティヴ・アメリカンが使用する薬草。
コパルは、マヤ・アステカ文明で使用された琥珀。
パロサントは、アンデス文明で使用された香木。

「香りは、人の記憶を呼び起こすトリガーになります。誰にでも、人生で記憶に残る香りがあると思うんです。香りを嗅ぐことで、過去に訪れたことのある場所や見た風景、感じた人の温もりが蘇る。僕は、お香に人類史や人の物語を練り込んでいます」

人類の歴史や時空の歪みが煙のように立ち上がるサンガインセンス。

異世界に迷い込んだ気がした理由は、“香りの記憶”のせいだった。世界中の人や文化が交差する京都の街で、香りの演出家は人と人の記憶と時間をつないでいた。

(写真:川しまゆうこ)

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サンガインセンス「世界巡香」を3名様にプレゼント

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「世界巡香」(レギュラーラインナップ全9種類入り)

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■応募方法

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編集者

お茶どころ鹿児島で生まれ育つ。株式会社インプレス、ハフポスト日本版を経て独立後は、女性のヘルスケアメディア「ランドリーボックス」のほか、メディアの立ち上げや運営、編集、ライティング、コンテンツの企画/制作などを手がける。

Editor
編集者

『DIG THE TEA』メディアディレクター。編集者、ことばで未来をつくるひと。元ハフポスト日本版副編集長。本づくりから、海外ニュースメディアの記者まで。企業やプロジェクトのコミュニケーション支援も。岐阜生まれ、猫好き。

Photographer
フォトグラファー

若いころは旅の写真家を目指していた。取材撮影の出会いから農業と育む人々に惹かれ、畑を借り、ゆるく自然栽培に取り組みつつ、茨城と宮崎の田んぼへ通っている。自然の生命力、ものづくり、人の暮らしを撮ることがライフワーク。