「自分たちの阿波晩茶が作れる…!?」

ある日、上勝阿波晩茶協会のFacebookページで紹介されていた「桶オーナー制度」の案内を見つけたのがすべての始まりだった。

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徳島県上勝町は、約1500人が暮らす、四国でもっとも人口規模が小さいまちだ。DIG THE TEAでは、ここ上勝町でしか作ることができない、世界的にもめずらしい乳酸発酵茶「上勝阿波晩茶」について2021年に取材し、その魅力を探った。

(参考:徳島・阿波晩茶、世界が注目する乳酸発酵した「幻のお茶」を訪ねて

土地特有の菌や風土が大きく影響し、ワインのように生産農家によって味が違うこと、その工程がほとんど手作業で行われていることなど、知れば知るほど阿波晩茶が持つ物語に夢中になった。

その反面、こんなに美味しくて素晴らしい阿波晩茶が、世界中から注目を集めているにもかかわらず、農家の後継者不足から存続の危機に瀕している状態をもどかしく思った。

つまり、私たちは阿波晩茶にすっかり惚れ込んでしまったのだ。

阿波晩茶のことをもっとよく知れば、自分たちにもできることが見つかるかもしれない。

その思いに至ったDIG THE TEAは、「#実験するDIG THE TEA」の企画として、前回取材した一般社団法人 上勝阿波晩茶協会が実施する「上勝阿波晩茶 桶オーナー制度」に参加し、50Lの桶の“オーナー”になることにした。

実際の阿波晩茶づくりは、どんな工程なのだろう。

完成した阿波晩茶を生かして、何か実験できないだろうか。

期待と妄想が膨らむ。

今回は、その最初の第一歩である阿波晩茶作りの様子をレポートする。

桶のオーナーになって、自分たちの阿波晩茶を作る

上勝阿波晩茶桶オーナー制度は、2021年に始まったばかりの取り組み。

阿波晩茶には、茹でた茶葉を木の桶に入れて漬け込み、乳酸発酵させるプロセスがある。この制度に参加することで、桶単位で阿波晩茶の“オーナー”になれるというわけだ。

特徴的なのが、プロの指導のもと昔ながらの伝統製法を実際に体験できること。また、自分たちで作ったお茶は最終的に販売することもでき、そのサポートも上勝阿波晩茶協会がしてくれるという。

DIG THE TEAを読んでくださっている皆さんにも、私たちが作った阿波晩茶を飲んでもらいたい。

つまり、絶対に失敗できない。そんな覚悟で桶オーナー制度に挑む。

出発前に、阿波晩茶づくりの工程をおさらいしておきたい。簡単に分けると8段階に分けられる。

1  茶摘み

2  選別

3  茹でる

4  擦(す)る

5  漬ける

6  桶出し

7  天日で干す

8  選別・袋詰め

今回は1〜5までの工程を体験する。

阿波晩茶は、茶葉がしっかり成長した夏真っ盛りの7月から8月上旬に行われる。新芽よりも栄養を含む成長した茶葉を使うことで、発酵が活発になるそうだ。

私たちが上勝に向かったのは、真夏の日差しが照り付ける7月中旬。

「阿波晩茶作りは大変」、「想像の5倍キツイ」などと事前に耳にしていたが、厳しい暑さのなかでそれぞれの工程が行われることも、その理由のひとつだろう。

DIG THE TEAチームは羽田空港から飛行機で徳島阿波おどり空港へ降り立ち、そこからレンタカーで1時間半。期待と不安を胸に、上勝町に前日入りしたのだった。

いざ阿波晩茶づくりへ

いよいよ阿波晩茶作り当日。この日も、朝から日差しが照りつける夏らしい気候だ。

朝8時、車で細い山道を登り、上勝阿波晩茶協会の拠点である古民家へ到着した一行。

早速、阿波晩茶作りを教わる上勝阿波晩茶協会・会長の高木宏茂さんをはじめ、阿波晩茶農家の美馬由実さん、地元住民の方、今日のために大阪から来てくれたサポートスタッフの方々に挨拶する。

上勝阿波晩茶協会・会長の高木宏茂さん

私たち#実験するDIG THE TEAチームは5名。協会のみなさんにサポートいただきながら50L桶分の阿波晩茶作りに挑む。

「摘む」というより「剥ぎ取る」

最初のミッションは、30kg分の「茶摘み」だ。朝8時すぎからスタート。

茶摘みは阿波晩茶作りの中でも、もっとも人手を必要とし、2、3日で摘み終わる農家もあれば、1カ月間も続くところもある。

毎年この地域や近隣から人を集めるなどして対応しているそうだが、茶摘みの人手だけでも安定的に増えれば、農家はかなり助かり、阿波晩茶を取り巻く状況はもっとよくなるだろう。

「とにかく摘まないとお茶にならない」と話す高木さんの言葉に、切実さを感じた。

茶畑は、古民家からさらに車で10分ほど山間を上った場所にあった。

「茶畑」といっても、一般的に想像するようなものではない。柑橘の樹木が並ぶその脇の急斜面に、なんとも野性味あふれる姿で生い茂っている。

正直、茶摘みの前に、お茶の木の近くに体を据えるだけでも一苦労だ。

阿波晩茶のお茶の木は、有機栽培のため農薬も肥料も使わない。

「とくになにもしてないけれど、近くにある養鶏場から菌が風に乗って降りてくるので、何かいい影響があるのかもしれない」と、高木さんは言う。

ちなみに、阿波晩茶を飲んだあとの「茶殻」は畑などに埋めて肥料にしているという。さすが無駄な消費、ゴミをなくす「ゼロ・ウェイストのまち」として知られる、上勝。どんなものも無駄にせず、循環させている。

阿波晩茶は、よく成長した厚みのある葉から、やわらかい先端の葉までまるごと使う。さまざまな葉が混ざることでより深い味になるという。

いわゆる「新茶」として出荷される茶の新芽を、摘まずにそのまま放置すると、茶の花が咲き、茶の「実」が成る

茶摘みの仕方も独特だ。生い茂ったお茶の枝をかき分けて、一本の枝を決めたら根本から手のひら全体を使いすべての葉をこそぎ取る。

茶の実や枯れ葉が混ざっていても、いちいちより分けて収穫していたら、時間が足りなくなる。とにかく枝の下から上まですべてこそぎ取り篭の中に入れていく。

成長したお茶の葉は、適度な硬さがあるため、枝をきれいに丸裸にするには結構な力がいる。

そう、「摘む」なんていうレベルのものではない。

茶葉を枝から“剥ぎ取る”作業。これはもはや「茶剥ぎ」だ。

阿波晩茶の農家を営む美馬さんは、軍手に針金を巻き付けて工夫をしていた。ものすごい速さで茶葉を剥ぎ取っていく。プロの技だ
DIG THE TEAメンバーも慣れない手つきで茶葉を剥ぎ取っていくが、コツをつかむまで時間を要した

高木さんにコツを聞くと、「実践あるのみ」と一言。

その言葉に従い、真夏の暑さの中、余計なことは考えず「茶剥ぎ」を黙々と行う。

よくも悪くもこの日はずっと晴れていたが、雨でも茶摘みは行われる。サポートスタッフの方は「実は、雨で少し濡れたくらいが気持ちいい」と話す。

開始から約2時間、午前10時に休憩が入ると、水出しの阿波晩茶のタンブラーボトルが提供された。

協会の方が用意してくださった冷たい阿波晩茶と甘いお菓子

輝くような山吹色が美しい。一口飲むと緑茶ともほうじ茶とも異なる深い風味が広がり、体にすっと染み入る。

ハードな作業後だからということももちろんあるが、阿波晩茶のおいしさにチームの面々もあらためて感嘆していた。

この世のものとは思えないほど美味しかった

その後、後半戦もひたすら茶摘みを進め、正午を回る頃にタイムアップとなった。

ドキドキしながら、摘み取った茶葉を入れた網袋を秤に載せる。

総量は27.2kg。

なんと、わずかに目標の30kgに届かなかった……!「あとちょっとだったのに……!」。足りなかった分は高木農園から分けてもらえたものの、チーム全員で悔しさを味わった。

「茶剥ぎ」を終えた私たちは、いったんお昼休憩を挟み、体力の回復を図った。愛情たっぷりの地元の商店のお弁当が体に沁みる。

昼食でいただいたお弁当。地元の商店にお願いして、届けてもらったもの

午後は30kgの茶葉と格闘 

お昼休憩を挟み、午後からは2.選別、3.茹でる、4.摺る、5.漬ける、の工程を、メンバー間で交代しながら取り組む。3〜5の工程は、まとめて「茶摺(す)り」と呼ばれている。

2.選別

まずは、選別。収穫した茶葉の中には、お茶の実や枯れ葉など混ざってしまうと苦味や雑味になるものが紛れている。これを手で選り分けていく。

ビニールシートの上に、広げられた約30kgの茶葉は圧巻。

茶葉を囲むように座って、使える茶葉は竹籠の中に入れていき、籠がある程度いっぱいになったところで、茹でる工程に移る。

3.茹でる

薪の火で沸かした大鍋の湯の中に籠のまま茶葉を茹でる。

大鍋の湯は沢の水を使っており、阿波晩茶作りの間、入れ替えることはしない。いわば秘伝のタレのようなものだ。

茶葉の茹で汁。「茶汁(ちゃじる)」と呼ぶことにした

この日は5日目で、これまでに茹でた茶葉の色によって茶色に濁っている。青葉のような匂いが立ち込めていた。茶葉のエキスをたっぷり含んだ茶汁は、漬ける作業でも使われ、阿波晩茶作りにおいて重要な役目を持つ。

茹でる作業は、鍋に茶葉の入った籠を入れる係と、籠の中でしゃもじのような道具を使って茶葉を上下にくゆらせる係の2人一組で行う。

美馬さんの作り方では、茹で時間は3分。この時間が30秒違うだけでも、味が変わってくるのだという。バーナーではなく、薪の火を使うのも美馬さん流だ。

「どうしてこういう作り方をするのか、私にもわからない。ただ、ばあさんがこうしろって言っていたことをやっているだけです」と、美馬さんは笑う。

阿波晩茶は生産者ごとに微妙に味が異なり、そこがまた魅力でもある。その家ごとの作り方を互いに尊重し、脈々と受け継いできたからこそのことだ。

美馬さん

この作業も猛暑の中での作業。しかも火を使うため、さらに過酷だ。

だが止まってはいられない。まだまだ大量の茶葉が茹でられるのを待っている。

全部で20篭ほど、この作業を繰り返した。

4.擦(す)る

茹でて、やわらかい緑色に変化した茶葉は、熱いうちに擦っていく。

「擦(す)る」とは、茶葉に傷をつけて発酵しやすい状態にすること。

最近は、揉捻機(じゅうねんき)という機械でこの作業を行う阿波晩茶農家も多いが、今回の体験では昔ながらの「舟」と呼ばれる道具を使う。

その名のとおり、舟のような形をした欅でできた道具で、上下にパーツが分かれている。

下側に茹でた茶葉を入れたら、両端に持ち手のついた重さのある上側を載せて、息を合わせて前後に動かす。

棕櫚(シュロ)を巻いたパイプが並ぶギザギザした底が茶葉に当たることで、ちょうどよく茶葉に傷をつけることができるのだが……これがかなりキツい。

擦る回数は、茹でた籠1つ分の茶葉につき200回ずつ。それを20篭分繰り返すのだ。

前後に動かす上側がかなり重く、力のある男性でも間に休憩を挟まないと進まない。

「引くというより、ちょっと上げるような感覚で」

「最後のほうはだんだん軽くなってくるから」

「息がぴったりしてきたね! あともうちょっと」

美馬さんや高木さんたちの声かけを聞きながら、無心になってただただ擦っていく。

舟の底は縄状になっていて滑りが悪い。これが摩擦を生む。だからこそ力がいる
200回×20篭。擦っても擦っても終わらない。みんなの腰が大変なことになってきた

200回擦った茶葉は、まんべんなく傷がつきしんなりしていて、明らかに最初のほうと様子が違う。

まだ熱さが残るこの茶葉を、今度は杵でついて空気をしっかり抜きながら桶に詰めていく。

ここまでの2.選別、3.茹でる、4.摺る、5.漬ける、の作業をチーム全員で交代しながら、すべての茶葉を仕込み終えるまで進めていく。

このように書くと、ただただ辛そうと思うかもしれない。だが、決してそうではなかった。

確かに大変な作業だったが、美馬さん、高木さん、サポートスタッフのみなさんが、どんなときでも明るく親切に接してくれた。

おかげで作業場は終始、和気あいあいとした雰囲気。体は疲れていても、心を元気にする。

.漬ける

いよいよ本日最後の工程だ。擦った茶葉を桶から少しあふれるくらいに詰め終わると、高木さんが「おまじないをしないとね」と一言。

なんのことだろうと思っていると、そこに持ち込まれたのは大きな大きな芭蕉(バショウ)の葉。芭蕉には殺菌効果があり、葉のカーブを桶の形に合わせながら適宜カットして一番上に敷き詰めていく。

「おいしくなりますようにって気持ちを込めて敷くんだよ」と高木さん。

一列に並び、実験するDIG THE TEAチームの一人ひとりが、思いを込めて葉を敷き詰めていく。その様子は、まるで神聖な儀式のようだった。

「美味しくなあれ」と願いを込めて、丁寧に芭蕉の葉を敷き詰めていく

次は芭蕉の葉の上に、茶汁に浸けてハチマキ状に固く絞った布を、桶の内側に詰めていく。余計な菌が入らないようここでの作業も丁寧に。

木蓋をしたら、その上に茶葉の重量よりやや重くなるくらいの重石を載せる。

桶に載せる重石を茶汁で清める

最後に人肌程度の温度になった茶汁を注ぎ、茶葉に空気が触れないようにして、このまま1カ月ほど発酵させる。今日の作業はこれで完成だ。

阿波晩茶の桶が出来上がると自然と拍手が起こり、なんともいえない達成感に包まれた。

阿波晩茶に新たな兆し

朝8時から始まり、すべての工程が終わったのが16時を過ぎた頃。慌ただしくも、濃密な時間だったように思う。

阿波晩茶作りは「想像の5倍キツイ」と聞いていたが、まさにちょうど5倍大変だった。しかし、想像の10倍楽しかった。

阿波晩茶づくりの体験をとおして、そのありがたみを感じ、阿波晩茶に対する愛情もより深まった。上勝という土地の豊かさや地域の人たちのあたたかさに触れられたのも大きい。

昨年から始まったこの桶オーナー制度の取り組み。徳島県内のローカルの情報誌を手がけている企業や、飲食業、宿泊業を営む人々なども多く参加している。ゲストハウスのお客さんを阿波晩茶づくりの体験に連れてきたり、カフェで阿波晩茶を使ったメニューやお茶にあうペアリングセットを提供したりと、それぞれ工夫をしながら阿波晩茶の魅力を伝えているという。

なかには「昨年、自分たちで作った阿波晩茶の茶葉を袋づめして販売したら、お客さんに喜んでもらえてすぐに完売した。だから今年はお客さんも誘って阿波晩茶作りに参加することにしたんです」と話す呉服屋の店主もいた。

桶オーナー制度の手応えを、企画者の高木さんにたずねた。

「僕らはお茶を作るのはプロだけど、伝えるのが得意だとは言えない。多くの人に知ってもらい、またそこからいろんな人に伝われば、阿波晩茶の価値は上がり、農家が増えるきっかけになります」

「参加者のみなさんが私たちの想像を越える形で、阿波晩茶をいろんな人に伝えてくれてとてもありがたい。でも、まだ始めたばかり。すぐに変わることはないけれど、続けていくことが大事だと思っています」

美馬さんも「阿波晩茶を通して上勝を知ってくれたらうれしいし、おいしいと言ってくれたら農家としては、もっとうれしい。さらに作りたいと思う人が増えるのは最高! こうした取り組みを始めた高木くんは、もう上勝の神様みたいなもんやね」と、冗談交じりに言いながら顔をほころばせる。

阿波晩茶を取り巻く環境は、一長一短で変わるものではない。しかし、変化の潮目は確実に生まれようとしている。

実験するDIG THE TEAチームも阿波晩茶づくりへの参加を通して、その未来のために何ができるかを考えていきたいと思う。阿波晩茶をめぐる「#実験するDIG THE TEA」の冒険は始まったばかりだ。

協会の皆さんが見送ってくれた。次の工程、桶出し、天日干しでまたお世話になります。

写真:江藤海彦 


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  • 著者:
    坪根育美
    編集者/ライター/ディレクター 東京都在住。Webメディア『MYLOHAS』、『greenz.jp』、雑誌『ソトコト』などの編集部を経て2019年に独立。持続可能なものづくり、まちづくり、働き方をテーマに雑誌、Webメディア、書籍をはじめとする媒体や企業サイトなどで編集と執筆を行う。また「ともに生きる、道具と日用品」をコンセプトにしたオンラインショップ『いちじつ』のディレクター兼バイヤーを務める。
  • 編集:
    川崎 絵美
濁流のように去りゆくこの時間を、心が溶けるひとときに。