和歌山の名産、全部ビールにしたら…? 酒屋発のビール醸造所に出会った【DIG × 和歌山】

江澤香織

各地を巡るDIG THE TEA編集チームが、取材先で偶然出会ったローカルの嗜好品やボタニカル、つくり手をミニコラムシリーズでお届けする。

第一弾は、温暖な気候で植生豊かなその風土を探るため、「ぶどう山椒」と「柑橘」の取材で訪れた和歌山県。

それぞれの生産者については、下記の記事で詳しく紹介している。

「ぶどう山椒」を世界へ。トップシェフが絶賛する、和歌山の山間部で生まれたジャパニーズスパイス

和歌山のみかん農家が教えてくれた、柑橘文化と最新トレンド

取材の合間を縫って、私たちは和歌山の柑橘や山椒に関連しそうな、その土地らしい場所や文化をリサーチしていた。

そんな中で偶然出会った、クラフトビールの醸造場「ブルーウッドブリュワリー」を紹介したい。

酒屋と思ったら醸造所だった

みかんの一大生産地として有名な和歌山県有田郡有田川町。私たちが訪れた冬は実りのシーズンで、民家の庭木にも柑橘がポコポコと豊かに実っていた。みかん農家は収穫に大忙しだ。

街の直売所を覗くと、黄色にオレンジにグリーンに、大中小あまりにも多様な種類の柑橘が、生産者の名前ごとに山盛りに並んでいて驚く。

柑橘で大にぎわい真っ只中の有田川町の街中を、車でぐるぐる移動していると、Googleマップでふと目に入ったのがブルーウッドブリュワリーだった。

次の取材までは、まだ時間がある。そしてみんなビールが大好きだ。興味本位で立ち寄ってみることにした。

目的地に到着し辺りを見回すと、そこに現れたのは昔ながらの小さな酒屋。

「あれ? 本当にここであってる?」と思いながらも、看板には確かにブルーウッドブリュワリーと書いてある。

店の前にはビールラックをひっくり返して木の板を渡しただけの、簡易なベンチが作られていた。ブリュアリーにしては、随分とのんびりとしたのどかな雰囲気に少々戸惑いながら、カラカラと引き戸を開ける。

店内は、一見すると地方によくある普通の酒屋……が、冷蔵庫の前に来て、みんなの声が歓喜に変わった。「うっわー!」「かわいい!」

そこには、ものすごく種類豊富なビールの瓶がぎっしり詰まっていた。

今回の和歌山取材の目的であるみかんと山椒のビールもある。

さらに梅、すもも、いちご、レモン、はっさくなど、和歌山の特産品を使ったさまざまなビールが並ぶ。

しばらく冷蔵庫にかぶり付く取材メンバー。冷蔵庫の脇にはサーバーが設置され、その場で樽生を飲むこともできるようになっていた。

和歌山の豊かな素材をふんだんに生かしたビール

思わず話を聞いてみると、店主の児島章(こじま あきら)さんは地元の酒屋を継いだ4代目。お酒を仕入れて売るのも悪くはないが、「自分でつくったらもっと面白いんじゃないか」と思ったそう。

児島さんはビール好き。酒屋を継いだ2012年当時は、ちょうど各地でクラフトビールが盛り上がり始めた頃だったが、有田川町にはまだそれほど浸透していなかった。

そこで、小規模ブルワリーを運営する岡山県の「吉備土手下麦酒(きびどてしたばくしゅ)」にお願いし、現地へ何度も通って勉強させてもらったそうだ。

2017年、酒屋に醸造所をオープン。酒屋の屋号が「青木酒店」なので、そこからブルーウッドと名付けた。

店の前には、シンボルツリーである大きな木が生えており、この木をキャラクター化して、ビールのラベルに使っている。どこか愛嬌あるほのぼのとしたイラストの原画は児島さん自身が描いたそうだ。

オリジナルキャラクター「ブルーウッドくん」が店頭で迎えてくれる

店の一番奥まで行くと、ガラス越しに480リットルのステンレス醸造タンクが並んでいる。

ホームページやパンフレットには「WAKAYAMAのきになるもの、ビールにしちゃった。」というキャッチフレーズ。その言葉通り、児島さんはクラフトビールの魅力を伝え、和歌山の食材の良さをもっと知ってもらおうと、さまざまな農産物を使っているうちにどんどん種類が増えてしまったそうだ。

ビールの説明を読むと、フルーツを中心に、どのビールにも必ず和歌山の素材が使われている。

おいしいみかんを作るために間引きされた、まだ青いみかんをサワー系ビールに使ったり、梅の歴史とも深い関わりを持つ特産品の備長炭をスタウト(*1)に使ったり。桜、スイカなど季節限定ビールもある。

和歌山の素材にこだわり、味わいに独自の工夫を凝らし、語りたくなるようなストーリーを秘めたビールが多々あって興味深い。

この日は地元の柑橘のピールが入ったペールエール(*2)、はっさくのピール入りのセッションIPA(*3)、そして備長炭のスタウトの3種類を味見させていただいた。

*1)スタウト:濃色の麦芽を原料の一部に用いた、色が濃く香味の強いビールのスタイル

*2)ペールエール:金色〜銅色のイギリスの伝統的なビールのスタイル

*3)IPA:インディア・ペールエールはペールエールの一種で、ペールエールよりもホップを大量に用いてアルコール度数が高く、香りや苦味が強いビールのスタイル 

樽生で提供しているクラフトビール。左から柑橘入りペールエール、はっさく入りのセッションIPA、そして備長炭のスタウト

どれも素材の良さとその土地らしさを感じさせる、おいしいビールだった。購入して後日に飲んだ、有田山椒エールのすーっとした爽やかなスパイス感にも魅了された。

和歌山らしい袋いっぱいの「おみやげ」

ホクホクした気持ちで買ったビールを抱えていると、「これもぜひお土産に持って帰って!」とみかんがぎっしり入った袋を手渡された。

みかんをもらうのは、この地域の“みかんシーズンあるある”らしい。和歌山県田辺市のバーの店主からは「みかんは優秀なコミュニケーションツール」と教わった。

さっそく車の中でひとつ味見してみたら、しっかり甘くてきれいな酸味のある、びっくりするようなおいしいみかんだった。

和歌山の風土の豊かさをリアルに体感した貴重なひとときだった。

ブルーウッドブリュワリー代表の児島章さん

ブルーウッドブリュワリー

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Author
フード・クラフト・トラベルライター

フード・クラフト・トラベルライター。企業や自治体と地域の観光促進サポートなども行う。 著書『青森・函館めぐり クラフト・建築・おいしいもの』(ダイヤモンド・ビッグ社)、『山陰旅行 クラフト+食めぐり』『酔い子の旅のしおり 酒+つまみ+うつわめぐり』(マイナビ)等。旅先での町歩きとハシゴ酒、ものづくりの現場探訪がライフワーク。お茶、縄文、建築、発酵食品好き。

Editor
編集者

お茶どころ鹿児島で生まれ育つ。株式会社インプレス、ハフポスト日本版を経て独立後は、女性のヘルスケアメディア「ランドリーボックス」のほか、メディアの立ち上げや運営、編集、ライティング、コンテンツの企画/制作などを手がける。

Photographer
フォトグラファー

若いころは旅の写真家を目指していた。取材撮影の出会いから農業と育む人々に惹かれ、畑を借り、ゆるく自然栽培に取り組みつつ、茨城と宮崎の田んぼへ通っている。自然の生命力、ものづくり、人の暮らしを撮ることがライフワーク。