古きゆかしき鉄の渋みと、暮らしに馴染むモダンな風格。

目の眩むような明るさが夜の空間を支配する現代社会で、照明ブランド「灯造(ともぞう)」の照明器具には暗闇を愛おしむような温かさがある。

「いったいどんな人が作っているのだろう」と好奇心を胸に、鉄工職人の古渡大さんに会いにいった。

茨城県常総市。国道を横に抜けて桜並木に沿って進むと、石垣に囲まれた隠れ家のような空間が広がる。

古渡さんが手がける鉄工ブランド「十てつ(とてつ)」のアトリエ

カンカンカンっと鉄を叩く音を頼りに敷地へ足を踏み入れると、やんちゃな笑顔と優しげな佇まいが印象的な古渡さんが出迎えてくれた。

「お待ちしておりました。どうぞどうぞ」と誘われ、湧き上がる高揚感を胸にアトリエへ。鉄に魅せられた古渡大さんの歩みと、独創性あふれるプロダクトの話を聞いた。

光源のある灯り、鉄の「笠地灯」

── 古渡さんの手がけた照明をSNSで見かけて、暗闇を大切にする世界観やプロダクトに魅せられてしまいました。照明は、どのようにして生まれたのでしょうか?

去年、鉄工職人として看板を掲げて、最初に売り始めたのが照明器具です。色々と照明を研究していて、最近のものだと「笠地灯(かさじとう)」があります。

これ、かわいいでしょう?

初期の頃は、主に吊型の照明器具を作っていたんですけど、もっと手に取りやすくてテーブルの上にポンと置いておけるような照明器具を鉄で作りたいと思ったんです。

「笠地灯」は、まずスケッチに描き起こしてみて、手元にある素材を活かして感覚的に作ってみたら、なんか可愛い笠地蔵みたいに見えてきて、直感的にネーミングしました。

笠の角度を調節すれば、間接照明にもなりますし、光源がよく見える照明にもなる。

広いテーブルに置いたときは、光がシェードに反射するんです。例えば、食卓でテーブルのすみっこに開き気味で置いたりすると料理と手元だけが照らされて、すごいいいなと。

スイッチはボタン式より不便に感じる人もいるかもしれないんですけど、自分で点けたり消したりする「スイッチの作用」を際立てるところに魅力を感じています。枕元に置いておけば、1日の終わりに自分のスイッチも切るみたいな感じです。

時の移ろいを感じる「心地良い暗さ」

── 照明ブランド「灯造」のコンセプトには、江戸時代の美意識に着想を得て「心地良い暗さを作り出すこともまた灯りの役割」と書かれていました。「心地良い暗さ」とはどんなものでしょうか。

照明を作るに当たって「心地良い明るさ」を考えたときに、光と人間の距離が鍵になると思ったんです。

最近は大きくて丸いシーリングライトが一般的ですよね。便利なんですけど、いざあれを使ってみると部屋全体がまんべんなく明るくなって、裏を返せば、それは灯りとの距離の取り方を、僕たち人間が操作できないことでもあるなと。

シーリングライトは「昼光色」といわれる明かりが一般的で、文字通り昼の光色なんです。夜に昼の光を強制的に入れているので、人間の生活リズムを乱しているともいえると思うんですよ。

── たしかに、シーリングライトの光はまんべんなく空間を明るくしますね。

そこで「暗闇の中でも、部屋のすみに光が灯ってると心地良いな」って気がつきました。光源に近づけば、手元が明るくなるし、遠ざかれば暗くなる。光源がなんとなく視界に入っていれば暗くても落ち着くなと。

昔は、ある程度しか明るさを確保できないので、夜の活動には制限がありました。それが夜に昼の光を取り入れられるようになった途端に、時間に関係なく作業できてしまう。僕もしがちなんですけど、そういうのは本来はあまり良くないんだろうなと。

時の移ろいを感じさせ、明暗の抑揚がある灯り。それは昔からある手元を照らす灯りの文化の延長なのかなと思って「灯造」のブランドのコンセプトにおきました。「笠地灯」もこの想いを体現していますね。

ちなみに今は「灯造」は休憩中で、鉄工雑貨や家具などのプロダクトを総括した「十てつ」を主軸にしているのですが、再ローンチの準備を進めているところです。

とりあえず鉄をバンバン叩いてみた

── そもそも、古渡さんが素材として鉄を選んだのはなぜですか? 大学では建築を学ばれていたとか。

父親が溶接工で、建設現場で溶接をしている人なんです。だから、小さい頃から家に鉄を扱う機材があったんですよ。

僕は大学院で、建築とプロダクトデザインを学んだので、その知識を活かして鉄を使って何かしたいなと思っていたのですが、卒業後は設計者とメーカーを繋ぐソフトを扱うIT系のスタートアップで2年ほど働きました。

設計者に使われているプロダクトに詳しくなる中で「空間に良い影響を与えるプロダクトってかっこいいじゃん」と思うようになって、ずっとやりたかった照明器具を作り始めたんです。

── まずは自分で一から作ってみたんですね。

高校生のときからインテリア分野に興味があって、イサムノグチ(アメリカ出身のインテリアデザイナー)の照明器具とかを見てかっこいいなと思っていたので、色々と繋がった感じですね。大学2年生のときには、廃棄されてしまうビニール傘を分解して、照明器具を作ったりもしていました。

建築もすごく魅力的だったので、何度もその道に行こうかと考えたんですけど、建築は必ずいろんな人を巻き込まないと実現できない分野ですよね。それでプロダクトと建築のどちらかを考えたときに、よりフットワーク軽く実現できそうな前者を選びました。

── IT企業を辞めて独立。鉄工職人として、最初にやったことはなんですか?

父が溶接工といえど、僕自身はあまり溶接をしたことがなくて、鉄で何ができるかもよく分かっていませんでした。なので、とりあえず鉄の廃材を使って、鉄をバンバン叩くみたいなことから始めましたね。

鉄を叩き始めた頃のプロトタイプ

── とりあえず、バンバン叩いてみた。

ひたすら叩き続ける中で「なんか(形が)反ってくるぞ」「これが伝統工法なのか」といった調子で、だんだん知識と技術を広げていきました。本やYouTube、Google検索などあの手この手で勉強しましたね。

どこかに弟子入りすれば早いんでしょうけど、基本は自分で触ってみる感じです。

触ってひたすら試行錯誤。実験してみた感じですね。会社を辞める3カ月くらい前から、土日はここで作業して、プロダクトとして格好がつくものができるまで、トータルで半年ほどかかりました。

── 鉄の廃材は、お父さんの職場から持って来たんですか?

アトリエの敷地内で兄が古物屋をやっているので、古い廃材や古物を仕入れてくるんですよ。その中に「これはもう使えないから、スクラップ屋さんに持っていこう」みたいなものもあって、そういうのを使ってやり始めました。

DIYで魂を吹き込んだ“アジト”

── お兄さんの古物屋さんの話がありましたが、敷地内のカフェはお母さんが営まれているとか。隠れ家のようなテーマパークというか、遊び場みたいな雰囲気で、建物の外には「ビール 樽ハイ 500円」の看板も見えました。

アジトとか隠れ家ってよくいわれますね。周りに住宅もあまりないし、竹林に囲まれていることもあって、別世界に入り込んだみたいな感覚になる人が多いみたいです。

実は、僕たちの地元は隣町で、ここはもともと自分たちの敷地ではなかったんです。

近くの川が、2015年に氾濫して、ここは敷地も建物も使えない状態だったんですね。父親の会社の機材を置く小さい倉庫を探していた頃に、この土地が安く売り出されていたので「同じような値段で、この広い敷地がゲットできるなら」と購入を決めて、家族でDIYをして全部改修しました。

左奥の日本家屋にカフェ、右手前に「十てつ」のアトリエがある

漆喰を塗り直したり、床と壁を張り替えたり……。父も僕も建築に精通しているので、ある程度建物のことはわかったんです。建物の構造自体はしっかりしていたので、手を加える必要はあまりなくて、内装だけ改装すれば使えたのも大きいですね。

── 洪水被害にあった土地と建物を、家族で改修。ものづくり一家ですね。

そうですね。まずは兄が古物を売りはじめて、半年後くらいに母のカフェができて、そこから約3年後に僕の作業場ができました。

いまは定期的に敷地全体でイベント開催もしています。父は作業場にはノータッチで、向こうに座ってよくビールを飲んでいます。一応1杯500円って看板はあるんですけど、自分が飲むために仕入れてるみたいな感じですね。もちろんお客さんも大歓迎ですよ。

ノスタルジーと実用性、歴史ある素材を現代の生活に

── 「十てつ」としては、茶香炉やスツールなどの生活のシーンにあるプロダクトも販売されていますね。

「十てつ」のコンセプトは「〇〇と鉄」から来ていて、他の素材とのコラボを重要視しているんです。

── 具体的に、どんな素材とコラボしたのでしょうか?

このコーヒードリッパーは、「陶器と鉄」という「十てつ」らしいプロダクト第1号ですね。陶芸家の大貫博之さんという方にお願いして、鉄と相性の良い釉薬を使用したドリッパーに仕上げてもらいました。

色々な形を考えたんですけど、最終的にシンプルな形状に落ち着きましたね。

コーヒーの細くて一直線なラインが特徴です。試作品を作ってもらったときに実験的に淹れてみたら「なんか一直線で落ちるぞ」と驚いて、「これめちゃくちゃ考えましたね?」と聞いたら「あ、考えてなかったです」と互いに驚いて(笑)。偶然から生まれた造形美なんです。本番もこれでお願いしました。

僕はコーヒーが好きなので、仕事を始めるときや、夜もう一仕事するときに、いつもこのドリッパーでコーヒーを淹れています。もはやちょっとした“儀式”みたいな感じですね。

底が少し膨らんでいるため、4つの穴を通じてコーヒーが中心に集まり、細い一直線を描いてコーヒーが淹れられる構造

── ここにある、縦長のものが気になるのですが……?

この彫刻みたいなのは、おもちゃです。商標登録されているので名前は使えないのですが「ジェンガ」と同じものですね。実用的なものだけじゃなくて、こういう遊び心があるものも作りたいなと。

大人になっても時々やりたくなりますが、大人の部屋に置いても違和感のないデザインのものを作りたいなと思って、栗の木を鉄染めして、箱にも鉄を使っています。劇的に登場する開き方もかっこいいんですよ。これは試作品で、本番はもう少し黒い色味になります。

幼き日の思い出から生まれた「茶香炉」

── 古渡さんがプロダクトを手がける上で、大切にしていることはありますか。

鉄は歴史のある古い素材ですけど「用途までは古くならないように」と思っています。ノスタルジーやアート性だけでは終わらないような、現在の生活でもちゃんと使えるプロダクトを作りたいんです。

木材と合わせるスツールも発表

例えば、この茶香炉も人気ですね。

小さい頃から家に茶香炉があったんですけど、それは陶器質のものだったんです。母親の趣味で、陶器でいろいろ作ってたりしていて、茶香炉もそのひとつでした。あのお茶の匂いがすごく好きだったので、それをつくりたいなと思って、やっと形にできました。

陶器質だと厚みが必要なので、かまくらのような形に限定されてしまい、繊細な形が作れないんです。鉄は細かい部品を作るのに適していて、細くても頑丈な素材です。これと同じ形を陶器で作ろうとすると絶対に無理なんですよ。

最初にスケッチを描いたときには、中段の皿と脚を溶接でくっつける仕様だったんですけど、最終的には穴を開けてそこに通すだけにしました。

鉄の脚は固くて頑丈ですが、バネみたいにしなやかに動くので、溶接なしでもお皿を支えてくれますし、外側に力を逃がそうとする脚のデザインを利用してお皿の高さ調整もできます。

素材としての鉄の特性をすごく上手く活かせた、一番お気に入りの作品でもあります。

お茶を炙ったり、アロマをオイルを垂らしたり、使い方は色々あるので、お客さんの手に渡ってからいろんな愉しみ方をしてもらえるのが良いですよね。使い手として愛着が湧いてくれるんじゃないかな。

鉄を叩き、作り、ディグりつづける

── 鉄を通じて、実験的なものづくりに挑戦している古渡さんですが、どんな時間が好きですか? お気に入りのリフレッシュ方法があれば教えてください。

やっぱり鉄を叩く時間ですね。

よく「苦行だよね」と言われるのですが、意外とこの作業があるおかげで気持ちが保てる。一番原始的で感覚的、しかも経験を積めば上達するので好きな作業なんです。

一定のリズムでカンカンカンって音を鳴らしながら、整ってくるような。仕事が全く捗らない日もありますが、何もできずに一日が終わると、どんどん参ってくるじゃないですか。「これは危ないな」って感じるときに、鉄を叩いてポジティブな逃避をしています。

オフの日は、空間に関する本を読んだり、日帰りで神社や古い建築を観に行ったりもしています。古くからあって現代でも使われているものを観ると、そこから力を貰える感じがするんです。

あとは趣味で絵を描いたりもします。やっぱり基本は何かしら作っていますね。休日も、今までやっていたことをちょっと深掘りして、それで快感を得て、落ち着く。なかなか共感されないんですけど、オンオフ関係なくディグっていますね。

── 根っから探究、深掘り(DIG)がお好きなんですね。

まさにディグり続けているんです。例えば、最近は鉄を炙る温度で色が変わることに着目して、特定の色を狙って出すにはどうすればいいかを考えています。語れば本当にキリがない、全然飽きることのない面白い素材ですね。

── 最後に、今後の展望や手がけてみたいプロダクトがあれば教えてください。

鉄を触って思考錯誤してきたなかで、ようやく質感のあるものを作れるようになってきたので、建築家でも使えそうなシンプルな形状で、質感にこだわる日本の設計者たちの期待にも応えられるようなものを取り入れていきたいな。

「灯造」の復活を念頭に置きつつ、今後も照明器具は色々なものを作っていきたい。「十てつ」としては、より遊び心あるものも作っていきたいですね。


Text: 林慶
Photo: 田野英知
Edit: 笹川ねこ

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濁流のように去りゆくこの時間を、心が溶けるひとときに。